四十雀の囀り日記

路上をゆるりと歩いたり、時に疾走したり。2004年から中国で暮らし、16年秋に13年ぶりに帰国しました。

対立があるからこその経済連携

 

日中韓3カ国はいずれも新政権が発足する。新たな政治が始ま楼とする中、「中国は信用できる相手ではない」「日本企業は中国から撤退すべきだ」などと相手を非難して対立を煽るだけでは、日本が世界から孤立する。少子高齢化でデフレと経済停滞に見舞われる日本が目指すべきは、何よりも世界最大の消費市場となりつつあるアジアと連携し、その成長を取り込むことだろう。

青山学院大学大学院国際政治学の羽場久美子教授も著書『グローバル時代のアジア地域統合~日米中関係とTPPのゆくえ』(岩波ブックレット)の中で、国・地域間に対立、紛争があるからこそ、「境界の緊張を緩和し鎮める」ための地域間の経済協力が大切だと説いている。

■動きだした日中韓FTA

尖閣諸島(中国名:釣魚島)や竹島をめぐって日中、日韓関係が悪化する中で、大きなニュースが入ってきた。

日中韓3カ国は昨年11月、カンボジアプノンペンで経済貿易大臣会合を開き、自由貿易協定(FTA)の交渉入りを宣言するとともに、実務レベルの協議を今年年初めから始めることで合意した。これは、政治問題と経済連携の強化は切り離して進めることで3カ国の意向が一致したことを示している。

FTAとは、国境間で動くモノやサービスにかかる関税を撤廃するか、段階的に削減することで、各国間の貿易や投資を促進するもの。日中韓の3国間での包括的な制度的な枠組みを提供するため、国境の枠組みを超えて関係性を強化することにもつながる。日本の外務省もウェブサイトで「3カ国にウィン・ウィン・ウィンの状況をもたらす」と期待している。

■日本を抜く消費大国に

中国は2020年までに日本の消費を上回る見通し。「世界の市場」となった中国に、隣国に位置する日本が優れた商品やサービスを売り込んでいかない手はないだろう。小さな島ごときの取り合いでチャンスを失うのは、日本の成長にとっても大きな損失になるのは言うまでもない。

FTAで関税が取り払われれば、日本の安全な野菜を「世界の消費市場」となった中国に安く届けることが可能になるだろう。日本の製造業が国内にとどまりながら中国向けの商品を生産し、輸出しても割に合うようになれば、産業の空洞化も阻止できる。ある業界によってはチャイナリスクの分散先として、東南アジアに生産拠点を移転するのではなく、日本へ回帰するという道も開けてくるかもしれないのだ。

その一方で中国をはじめ、市民の格差が拡大するアジア諸国では、高い技術力や問題解決能力を持った日本企業が果たす役割はまだまだ大きいとみられ、各国からもその活躍が期待されている。政治的な解決策が見えないからこそ、経済連携が3カ国の対立を乗り越え、緊張を緩和する鍵となりそうだ。