四十雀の囀り日記

路上をゆるりと歩いたり、時に疾走したり。2004年から中国で暮らし、16年秋に13年ぶりに帰国しました。

バナナを拾えない子ザル

 どこの動物園にも必ずあるといってもいい、サル山が好きです。パンダとかなんとか珍しい動物を眺めても、あーそうかという感じで意外とあっさり見終わってしまいますが、サル山に来ると僕は離れがたくなります。売店で買ったポップコーンを口に放り込みながら、いつまでもボーと眺めていたりします。同類友を呼ぶともいいますが・・・。


 サル山。ただサルたちが群れて暮らしているだけですが、ある程度の数が揃うと、そこには社会ができるらしく・・・。ふてぶてしくみんなの餌を横取りしているボスだとか、子ザルを抱えたメスたちとか、ボスに遠慮しがちな若いオスたちがいて、現役を終えたご高齢のサルもいる。きっと、人間社会とほぼいっしょだからおもしいのでしょう。眺めれば眺めるほど、サルたちの社会がみえてきます。


 もう一昨年の秋になりますが、雲南省昆明市内にある動物園へ彼女といっしょに行きました。パンダがいるとの噂を聞いたのですが姿はどこにもなく、代わりに人気ものになっていたのは小さなレッサーパンダでした(このレッサーパンダくんは後で動物園を逃げ出して街中をうろついていたと地元の新聞で大ニュースになっていました)。またヒグマより大きなシベリアンタイガーとか、中国語で「おじぎ」って声をかけると頭を下げるゾウとかを見てまわり、もう歩き疲れたなーと思っていたとき、最後にたどりついたのがサル山でした。

 さすがに中国というもので、ここのサル山もけっこう巨大です。50匹近くのサルがいて、客が投げるバナナとかリンゴとか、ひまわりの種とかをみんな必死で取り合い、むさぼるようにして食べています。

 その中に僕の目を引く一匹の子サルがいました。近くにバナナが落ちても、なぜか拾いに行かないのです。岩の陰にずっと座ったままです。

 なぜだろうとその子ザルをずっと見ていると、両足が異常に細いのが分かりました。動こうとすると、下半身を引きずるようにしてゆっくり移動します。たぶん生まれながら両足に障害があったのでしょう。

 どうやってバナナを拾うのだろうと、さらにその子ザルを見続けていたのですが、僕が眺めている間は結局ひとつとして拾うことができませんでした。たまりかねた僕は、その子ザルに届くようにヒマワリの種を投げてみましたが、案の定ほかの子ザルたちが拾ってしまいました。本当にチクショーと思いました。


 なぜか、上海に来てもときどき思い出す子ザルの話でした。えげつない競争にさらされる上海に来たから思い出す子ザルなのかもしれません。競争が社会の原理であったとしても、競争だけで社会は成り立たないような気がしています。あの子ザルはどうしているだろうか?まだ生きているのだろうか?