四十雀の囀り日記

路上をゆるりと歩いたり、時に疾走したり。2004年から中国で暮らし、16年秋に13年ぶりに帰国しました。

夜の果物屋さん

果物屋

 きょうは仕事の帰り道、朝食用のバナナをよく買っている果物屋さんに立ち寄りました。林檎、西瓜、苺、檸檬、梨、蜜柑などが並ぶ小さな果物屋さんです。裸電球が2つ天井から吊るされて、果物たちをカラフルに照らしています。

 28歳の女店長は「いらっしゃいジェンイー(本名の中国語発音)、ゆっくりしていってよ!」というので、プラスティック製の簡易椅子に座り、彼女と雑談をしながら1時間半ほどを過ごしました。

 いろいろと話しました。彼女は10年前、ひとりで田舎から上海に出てきて果物店を開いたこと、いま幼稚園に通う7歳の子どもの学費が高いこと、ものすごく中国語が上手い日本人の男性客が以前いたこと、上海の街の変化がとても早いこと、店舗の家賃がとても高いこと、楽しく暮らすのが一番などなど。

 2人で話している間にも、お客さんが次々とやってきます。「この林檎はいくら?」と客が僕の顔をみて値段を聞くのには参りました。僕はスーツにネクタイ姿です。なのに果物屋の店員にみられてしまう僕ってなんなんでしょう。上海の街に溶け込みすぎです。何人かのお客さんとも話しをしました。「あなた日本人なの!?」と必ずびっくりされますが、ある上海人の女性は娘さんが有名な同済大学の学生さんらしく・・・。

 その大学生の娘さんの話です。昨年春、上海で反日運動が盛り上がっていた頃、ある教授が講義で日本製の商品を買うべきじゃないと息巻いていました。が、娘さんが「でも中国にある商品は日本のが多い。両国の経済的な関係もとても深いし、互いに依存しあってます」みたいな意見をいったら、教授は怒ってテキストを投げたというのです。娘のお母さんのその女性は「そうよね。日本のものがなくなったら、みんな店たたまなきゃならないのに矛盾してるわね」と。



 果物屋さんの奥に座って、低い地点から街行く人といろんな話をしていると、いつもとは違った風景が広がっているようで、とても新鮮でした。自分の視線を低くすると、上海の人々がいつもより人懐こくみえるものでしょうか。とにかく、夜の果物屋さんで僕が感じたのは、本当は中国人が日本に対してどう思っているとかなんとか小難しいことではなく、僕はもっともっと普通の人々と出会って、もっともっと彼らと話をしていきたいなということです。
 
 時計の針はいつの間にか夜の9時をまわっています。「もう家に帰るよ」と僕が立ち上がると、女店長は店頭に並べてあった梨1個と胡瓜2本を袋に詰めて持たせてくれました。お金はいらないといいます。
 僕が日本語で「ありがとう」と言うと、彼女は笑っていました。