僕に足りないもの
夕方8時すぎ。会社の帰りにひとりで安食堂に入りました。
どのテーブルも客であふれています。僕は、女性店員に7元の回鍋肉を注文して、料理が運ばれてくるのを待ちました。客が多いため、なかなか回鍋肉はやってきません。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ・・・指を折りながら、僕はゆっくりと数え始めました。
数えだしたのは、時間ではなく、僕に足りないものです。
美貌、知能、理性、地位・・・数えだしたら限がないことに気づきました。足りているものより、足りていないもののほうが多い。いや、足りているものなんてひとつとしてないじゃないか。まったくしょうがない。
そして、何よりも一番大切なものが足りない。
僕は急にさみしさを感じて、頬を撫でながら通りを眺めました。
ちょうど若い男女が楽しそうに寄り添って歩いていきます。いつもは気づかないふりをしている心の隙間がキュと締め付けられるような切なさを感じました。
僕はこんな異国の地でいったい何をやっているんだろう、なんてときどき物思いに耽ったりもするんです。
ですが、突然、ドスンっと音を立てて、僕の目の前に回鍋肉が登場しました。店の従業員が運んできた回鍋肉からは、おいしそうに白い湯気が立っています。従業員のあんちゃんの顔が微笑んでいました。