四十雀の囀り日記

路上をゆるりと歩いたり、時に疾走したり。2004年から中国で暮らし、16年秋に13年ぶりに帰国しました。

上海路上の経済学 価格論

 ものやサービスの価値は需要と供給のバランスによって決まる。と、いうことは学校で習った市場経済の基本中の基本だ。

 ところが、社会主義市場経済の本拠地・上海では、“客の顔”で値段が決まる。(路上の経済学の法則その壱。これは世界の著名な経済学者は誰ひとり研究していないため、僕が研究論文を発表して、いずれノーベル“平和”賞を受賞する予定。経済学賞でないところがミソだ)


 勘違いしないでほしい。ものやサービスを提供する側の“顔”ではない。たしかに日本のクラブなら、お姉さま方が美人であればあるほど、サービスの値段は高くなるのは当然のこと。それだけすけべな男たちからの需要も高くなるというものだ。
 だが、上海ではこともあろうにものやサービスを享受する側、いわゆる“客”の顔で値段が決まるのだ。日本では考えられないので、善良な皆様方には想像がつかないかもしれない。

 たとえば、機会があったなら上海の路上の市場へ出かけてみてほしい。あなたが貧相な顔をしていれば、ものやサービスはほぼ相場通りの値段で享受できる。金をもってなさそうな人に払えない値段をふっかけたりしないからだ。

 しかし、“僕”のように裕福そうで、幸せそうな笑顔をして白い歯を不注意にみせてしまえば、店主によってものやサービスの値段は一気に引き上げられる。値段の引き上げ方は尋常ではない。相場の2〜3倍ぐらいは軽く、しかも平気な顔をして引き上げるのだ。

 だから、社会主義市場経済では、店主と消費者は敵同士。決して甘い顔をみせてはいけない(路上経済学の法則その弐)。


 「もっとまけてよ!」と交渉すれば、これまた恥ずかしげもなく一気に半額にまで落ち、拍子抜けする。相場の倍以上に吊り上げていたことを簡単に認めたようなものだが、店主は顔色ひとつ変えない。もっと粘ってほしかったものだとこちらがが思ってしまうほどだ。
 
 
 アジアをよく旅する友人が言うには、急激な経済発展を遂げるインドでも同じ法則が通用するらしい。
 その友人はカルカッタの路上でものを買おうとして、もの売りの若いあんちゃんに値段を聞くと、相場より3倍ほどの値段を言ってきたという。でも、友人の顔をまじまじと見直したあんちゃんは、てへへと照れ笑いをした。その笑いは「ちょっと高めに言い過ぎちゃったかな」という感じの笑いだったらしい。




 友人は、貧相な顔をしていたのかもしれない。