四十雀の囀り日記

路上をゆるりと歩いたり、時に疾走したり。2004年から中国で暮らし、16年秋に13年ぶりに帰国しました。

晴れた日はカメラを持って街へ出よう


夢をみた。


 誰も、誰ひとりとして信じてくれなかった。

 マチュピチュの石畳の上を歩いた心地よい疲労感のことも、

 奄美で聴いた心に染み渡る島唄の旋律も、

 宇宙まで広がっているような雲南の高く青い空も、

 金を生み出すうす汚れた上海の空気の臭いも、

 「すべて幻想だ。お前は夢をみてきたんだよ」と、誰かに諭されるように肩を叩かれた。


 そんなことはない。そんなはずはない。確かに僕はこの目で、この耳で感じてきたんだ。だったら、僕が見てきたすべての証拠をお前たちにみせてやる。このポケットの中にいっぱい入ってるんだ。ちょっ、ちょっと待ってて欲しい。いま、みせるから・・・
 と、小さなポケットに手を入れてみたら、噛み終わったガムを包んだくしゃくしゃの紙しか出てこなかった。


 僕の大切な記憶は、どこへ行ってしまったんだろう。本当に僕は何かを感じてきたのだろうか。やっぱり常識的な大人たちが言うように幻だったのかもしれない。舌足らずの僕は、もう何も言うことができなかった。
 
 


 目を覚ますと、頭から布団を被っていてまだ暗闇の中。いまが朝か夜か、いったいどこにいるのかすらわからなかった。エイっと勢いよく布団を上げたら、窓から明るい光が差し込んでいる。時計の針は午前10時。
 きょうも快晴みたいだ。昼過ぎからカメラを片手に上海の街へ出てみよう。僕がいまここに存在する証拠を探しに。