晴れた日はカメラを持って街へ出よう
誰も、誰ひとりとして信じてくれなかった。
宇宙まで広がっているような雲南の高く青い空も、
金を生み出すうす汚れた上海の空気の臭いも、
「すべて幻想だ。お前は夢をみてきたんだよ」と、誰かに諭されるように肩を叩かれた。
そんなことはない。そんなはずはない。確かに僕はこの目で、この耳で感じてきたんだ。だったら、僕が見てきたすべての証拠をお前たちにみせてやる。このポケットの中にいっぱい入ってるんだ。ちょっ、ちょっと待ってて欲しい。いま、みせるから・・・
と、小さなポケットに手を入れてみたら、噛み終わったガムを包んだくしゃくしゃの紙しか出てこなかった。
僕の大切な記憶は、どこへ行ってしまったんだろう。本当に僕は何かを感じてきたのだろうか。やっぱり常識的な大人たちが言うように幻だったのかもしれない。舌足らずの僕は、もう何も言うことができなかった。
目を覚ますと、頭から布団を被っていてまだ暗闇の中。いまが朝か夜か、いったいどこにいるのかすらわからなかった。エイっと勢いよく布団を上げたら、窓から明るい光が差し込んでいる。時計の針は午前10時。
きょうも快晴みたいだ。昼過ぎからカメラを片手に上海の街へ出てみよう。僕がいまここに存在する証拠を探しに。