四十雀の囀り日記

路上をゆるりと歩いたり、時に疾走したり。2004年から中国で暮らし、16年秋に13年ぶりに帰国しました。

ダルフールのジェノサイドと中国との関係

 上海の街を歩いていると、黒人をよくみかける。
 多くはアフリカ諸国からの国費留学生だ。彼らは、母国へ帰ったらお国を背負って立つようなエリート中のエリート。上海の大学に留学経験のある日本人の友人に聞けば、彼らアフリカ人はどの国の留学生よりも真面目でよく勉強し、中国語も驚くほどあっという間にマスターしてしまう。「上海にいる黒人といえば、ものすごく優秀なイメージ」なのだという。今回はいつものブログとは少し趣向を変えて、グローバル経済のもとで進むアフリカと中国の深い関係を紹介したい。

 街角でみかける黒人の増加に比例して、最近は中国のテレビでもアフリカ関係のニュースは多くなっている。
 つい2月中旬も、胡錦濤国家主席らが12日間でアフリカ8カ国を歴訪したばかり。近年、中国政府首脳はこうしたアフリカへの訪問を繰り返している。ここ1年間だけでも胡主席が2回、温家宝首相が1回、李肇星外相が2回の合わせて5回もアフリカ諸国を訪問した。
 昨年11月には、「北京サミット」と銘打った中国アフリカ協力フォーラム(FOCAC)が開かれて、アフリカ48カ国の首脳が北京に一堂に会した。テレビからは盛んにニュースが流れていた。同時期に北京へ遊びに行った知り合いが話すには、「アフリカは中国の友達」というムードが北京の街いっぱいに溢れていたらしい。
  
 アフリカとの関係強化にかけるこうした中国の熱心さは尋常ではない。が、その背景には2つの大きな理由がある。
 その1つが中国国内市場では飽和してしまって売り先がなくなった中国製の安価な製品を、アフリカを新たな市場として売りつけていくことだ。中国企業の進出にもつながる。
 2005年、中国の対アフリカ輸出は約187億ドルと、過去5年で3.7倍に急増した。輸出品目は、携帯電話やテレビなど家電のほか、自動車やバイク、衣類など多岐にわたっている。これらの対アフリカ貿易を担っているのが、中国国内企業による製品輸出だ。貧困にあえぐアフリカ諸国が安価な中国製品の流入で消費が助けられている反面、ある程度工業化が進んだ南アフリカなどでは地場産業の成長が妨げられていると強い反発も出ている。
 
 もう1つの狙いが、アフリカに眠る原油や銅などの豊富な天然資源だ。特に原油だ。エネルギーの安定的な確保は、国内産業の発展と国の安全保障にも直結する。アフリカからの原油調達比率(金額ベース)は、1998年に9.0%だったのが05年には30.6%を占めた。エネルギーの調達先を中東やロシアなどに偏らず、調達先を分散させている先がアフリカなのだ。


 しかし、もっと知らなければならないのは、スーダンダルフールで03年から断続的に続いているジェノサイドの陰に、中国があるということだ。

 ダルフールで、ジェノサイドが始まったのは2003年2月だ。それ以降、ジェノサイドはたびたび発生し、国連の発表では06年2月までに18万人が殺され、200万人もの避難民が発生した。
 スーダンでは、北部のアラブ系住民と南部の黒人系住民が仲が悪く、1955年からずっと紛争を繰り返していた。02年には米国などの仲立ちで一旦は和平協定が成立したはずだったが、03年2月に「ジャンジャウィード」と呼ばれるアラブ系民族の民兵が決起。政府軍の空爆の支援の下で、黒人系住民の村を焼き払い、殺し、強姦し、略奪のすべてを繰り返した。同政府はアラブ系が政権を握っているのだ。
 国連がスーダン政府に対する制裁措置をしようとするが、中国が拒否権をちらつかせて、スーダン政府を擁護する。同国の横暴を無視する中国も当然、国際社会からの非難を浴びている。
 だがなぜ、中国はスーダンへの制裁を阻止しようとするのか。

原油である。スーダン原油が欲しいのだ。
 国際社会から完全に孤立したスーダンだが、同国から産出される原油の7割は中国へ輸出されている。中国からは武器まで供与を受けているのだ。ジェノサイドは止まらない。
 

 昨年、日本でも話題になった映画「ホテル・ルワンダ」。1994年にルワンダで実際に起こった民族間の対立によるジェノサイドをテーマにしている。この映画の中でも、武器となった大量のナイフが中国製だったことが、ちゃんと描かれているのを覚えている人もいるだろう。いま、あの映画の世界がダルフールで続いている。

 先進国が忘れていた盲点ともいえるアフリカの地で、世界の声を無視して力をみせつけるようになった中国。世界を支配しようとする「新覇権国家」の登場を感じぜずにはいられない。アフリカに進出した中国企業はすでに800社にも上るという。
 私も、中国の現場を少しは知っている人間として、近い将来アフリカ各地を訪れてみたいと思っている。利益のためならなりふり構わないグローバリズムの暗部が、いま世界でどう進行しているのかをこの目でみてみたい。