四十雀の囀り日記

路上をゆるりと歩いたり、時に疾走したり。2004年から中国で暮らし、16年秋に13年ぶりに帰国しました。

途切れるやさしい声

 先週、パソコンに向かって、仕事用のつまらない文章を書いていると、背広のポケットに入れてあった携帯電話がプルルと鳴った。

 携帯を取り出して着信の名前をみると、遠くで暮らしているある女性から。
 社内では私用の電話はできないから、慌ててオフィスから廊下に出る。2年前と変わらないやさしい声が耳に届く。
 だが、携帯電話の電波が悪い。時々、彼女の声が途切れる。


 彼女は決心した。この3月でいまの仕事を辞め、北京へ移り住むこと。そこに彼女が嫁ごうとする男性がいる。「あなたも知っている男性。あなたにはちゃんと話しておきたかった」と彼女は打ち明けた。ずっと僕には本当のことを話せないでいたらしい。
 電波のせいで途切れ途切れになる彼女の声。この春節旧正月)の長期休暇を利用して、2人で彼氏の両親にも会ってきた。でも、なぜだか不安になる。僕の声を聞きたかったのだという。昔、彼女の両親と過ごした春節を思い出した。僕が火をつけて爆竹を鳴らした。 

 彼氏のことが好きなのか?と聞くと、彼女は「好き」だと。
 「だったら、いいと思う。本当に好きだったら・・・」と僕は言った。それ以上何を言っていいかわからなかった。



 最後に彼女は「あなたはこれからどうするの?ずっと上海なの?」と聞いてきた。僕は「分からない」とだけ答えた。

 未来のことなどわからない。でもひとつだけ確かなのは、どうやらとても素敵な女性に恋をしていたらしいということ。途切れ途切れの彼女の声を聞きながら、そう思った。