四十雀の囀り日記

路上をゆるりと歩いたり、時に疾走したり。2004年から中国で暮らし、16年秋に13年ぶりに帰国しました。

偶然の物語

「物語を書こう」と、約束したのを覚えている。
 ずっと昔のことだ。
 彼女との物語は、必然だと思った。



 僕がまず書き出す。1つの章を書き終えたら、彼女へ渡す。
 そこから、彼女が書き繋いでいく。そして僕が書く。また彼女に渡す…
 



 
 永遠に終わらないはずだった物語は、結局は始まりもしなかった。
 



 
 中国では旧正月を「春節(しゅんせつ)」と呼んで、新年の休暇となる。
 先週まで1週間の休暇を利用して、僕は信州へ帰省していた。


 ちょうど大雪が降った。白く輝く世界の中を犬がはしゃぎまわった。

 僕は地面の雪を一塊ずつ握り、丸めて雪玉にした。


 
 狙いは、雪の中から顔を出している細い木の棒だ。10数メートルほど離れている。
 
 

 1投目。大きく後方へはずれた。肩慣らしだ。

 2投目。今度は前方に落ちた。まだ距離間がつかめない。

 3投目。もっと大きくはずれた。コントロールなんてあったもんじゃない。


 4投目。見事に命中した。幅が5センチもない棒の表面に雪がついて残った。




 物事なんて気まぐれ。偶然の積み重なりが、僕を生かしている。

 過去には「偶然」は存在しない。偶然の積み重なりが真実だったとしても、過去に起きたことは明確な事実でしかないからだ。
 だが、未来は偶然が作り出していく。未来の中に偶然は存在している。











 上海に戻った。

 雪は降っていなかったが、もう一度、物語の書き出しを考えてみようと思った。

 偶然、物語が始まることもあるかもしれない。






 その物語の主人公はやはり、僕しかない。