静かな光の夜に
人は、他人の痛みを感じられる。涙が流せる。
そんな当たり前のことを、ここ中国でも感じた。
2008年5月12日午後2時28分。
四川省で大きな地震があった。
犠牲者は最終的には7万人を超えるとも言われている。
まだ多くの人々が瓦礫の下に埋まっている。
「全国追悼日」の初日の夜、上海市の人民広場に若者たちが集まった。
地面にロウソクを灯して、犠牲者たちを悼んむ。
深夜12時近く。とても静かな夜だった。
チベット、四川大地震、そして五輪・・・中国。
時代の分岐点があるとすれば、きっと2008年になるだろう。
分岐点という濃い空気の中で呼吸しているのを強く感じる。
こちらの新聞やテレビでは、「中国がんばれ」と繰り返す。
確かに悲しいし、痛い。
けれど、災害のドサクサに紛れて、いろんな問題があることを見失わせようとする。そんな意図も見え隠れしていないわけじゃない。
涙に流されてしまったらいけないんだと思う。
帰り道のタクシーの中、高速で通り過ぎていく夜景を眺めながら、そう思った。
行き着けのショットバーに戻った。
ロウソクの光を撮影してきたんだと、従業員の女の子たちと中国語で話していたら、遠くの席いた中国人男性が、僕に一杯のビールをおごってくれた。
彼は遠くから「謝謝(ありがとう)」と言った。
僕もビールを軽く持ち上げて「謝謝」と返した。
僕は何もしていないし、中国にいるくせに何もできていない。
が、どこかに痛みだけは感じているのかもしれない。
とにかく今は、どんな饒舌な言葉よりも、ただ静かで優しい光が欲しい。
暗闇の中に埋もれて犠牲になった多くの子供たちのためにも。
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※shotbar Velude(ビロード)上海市長寧区新漁東路259号(水城路近く)