四十雀の囀り日記

路上をゆるりと歩いたり、時に疾走したり。2004年から中国で暮らし、16年秋に13年ぶりに帰国しました。

月を撃つ

「もしあの月を撃ち落とすだけの力を持つことができれば、
この世から消えてしまうのかもしれない。いま多くの人々が感じている悲しみや苦しみも」 
    電話の向こうであなたは言った。
 
 何をどう語るのかなんてどうだっていい。
   何をどう感じているのかが、知りたいだけ。僕は電話の声に耳を澄ました。
 


 
 中国に来て4年、ここで学んだことがある。
  
  機能や使い方を説明するマニュアルなんてどこにもない。
      それでも月は空に浮かんでいるということ。
   責任の所在を確かめる契約書なんて必要としていない。
          それでも地球は自転しつづけているということ。 
 
 日本で暮らしていたら、気づけなかったかもしれない。世界が動いていることすらも。
  もしかすると、僕はこれだけのことを学びに異国の地に来たのかもしれない。
   あの月を打ち落とすためにやって来たのかもしれない。

  
  見えない糸ですべてが仕切られていると感じていた。
   自由に体を動かそうとすると、どこかの線に触れて、ビーと警戒音が鳴る。
  少年の頃から感じていた社会のみえない糸。

   その糸を解くほどの勇気なんて持てなかった。
    




 「そんな単純なことに気づくのに何年もかかったよ。
        今夜なら、僕はあの月を撃ち落とせる気がする」