四十雀の囀り日記

路上をゆるりと歩いたり、時に疾走したり。2004年から中国で暮らし、16年秋に13年ぶりに帰国しました。

ねじ巻き時計のねじを巻く (1)

 今朝、目を覚ますとテレビの上に置かれたねじ巻き時計が、7時19分を示していた。
 布団の中から枕元へ手を伸ばし、携帯電話を引き寄せて時刻を確かめてもやはり同じ7時19分。

 「こんな偶然ってあるんだな…」と僕はつぶやいた。

 ねじ巻き時計は、僕の怠慢のおかげで肝心のねじが巻かれずに、昨夜から止まっているはずだった。ねじ巻き時計の針が昨夜から差していた時刻は、7時19分。
 そして、今朝僕が目を覚まし、ねじ巻き時計に意味もなく目をやった時刻がちょうど7時19分だったのだ。

 単なる錯覚だが、止まっているはずの時計が一瞬だけ動き出したことになる。

 




 僕の中でずっと止まっていたはずの時計が動き出したのは、この年末年始も同じだった。約2年半ぶりに雲南省昆明を訪れたのだ。2004年春から1年半、中国語を学ぶために語学留学をしていた思い出の場所。06年の春に訪れたきりだった。
  

 大晦日の31日、僕はひとり昆明市街地からバスに乗って1時間余りの場所にある楊林県という田舎町へ足を伸ばした。初めて訪れる場所だったが、会う人がいたのだ。


 外は零下近くに温度が下がっているのだろうか。高速で通りすぎていく道路脇の緑の上には雪がわずかに積もっているようだった。ところがバスには暖房などなく、足元からぞくぞくと体が冷えてくる。バスに乗る直前にトイレに行ってきたのだが、すぐに強い尿意を覚えた。

 膀胱は限界を迎え、バスが目的地に着くまでの1分1秒が気の遠くなるような時間の長さに感じた。


 バスは、赤い土がむき出しになった辺鄙な田舎町の中へと進んでいく。
 
 
 どんな田舎に連れていかれようと構わないが、大人のお漏らしだけは避けたいと祈った。僕は、泥だらけの先にあるだろう停車地をぎっと睨んでいたに違いない。


 (次回につづく)