ねじ巻き時計のねじを巻く (2)
突然で申し訳ないが、僕がこの10年近く繰り返し見ている映画がある。
1999年にアメリカで製作された「マグノリア」という映画だ。
トム・クルーズが演じるセックス伝道師。
個性派俳優のウィリアム・メイシーが演じるダメ男。
テレビのクイズ番組で勝ち続ける天才少年。
財産欲しさに富豪に嫁ぎ、大勢の男たちのチ○ポをしゃぶりまくってきた女などなど、10数人の老若男女たちの24時間を追った物語だ。
10人それぞれが主人公で、画面がテンポ良く切り替わっていく。この映画の中ではトム・クルーズすらもその1人でしかない。
一見まったく別の世界に生きているはずの10数人が、どこかでひっそりと繋がっていく。
最後は、彼らが住む街に空からあるものが降ってくるのだが…。
ばらばらな物語を一度に見せられているようだが、最後にはひとつの物語へと収斂されていく。
いや、世界は相当いい加減で、ばらばらに見えても、ひとつの物語の中に僕も組み込まれているのかもしれないとさえ、思えてくる。
世界の人々を結ぶ物語が、いまどこかの街で繰り広げられているのかもしれない。
自分とはまったく別の世界にあるはずの、昆明の郊外にある小さな田舎街。やっとのことで僕が乗ったバスはここに到着した。
雪は小雨に変わり、道には冷たい泥がはねている。牛やロバ、ヤギが道を通り過ぎていく。
バスを飛び降りて、すぐ近くの男性に「トイレはどこか?」と聞くと、あっちだと指を指したが、トイレらしきものが見つからない。
尿意は限界まできている。僕は仕方なく、道路脇の畑に向けてチャックを開けて済ました。
終わった後の地面からは白い湯気が立ち、漏らさずに済んだ安堵感が空へと立ち上がっているようでもあった。
この寒々しい泥の街で、僕は3時間ほど当てもなく、ある人を待つことになった。
(次回につづく)