メモの空白に
夜桜をみた。
5年ぶりの日本の桜。
桜の花びらのハート形が、アスファルトに模様をつくる。
心の中で自由自在に花びらを動かし、形あるものを描いていくことはお手の物だ。
先々週、日本へ一時帰国した。
いつも一時帰国は正月か冬。桜が満開の季節に出合うのは、実に5年ぶりだったのだ。
信州は、静かだった。
景気が低迷しているからではないだろう。
静けさは、自分の内にあるのかもしれない。
ざわついた気持ちの中で、逃げるように中国へ旅立った5年前の春を思い出した。
そして今、ざわめきの消えた心の中で、ゆっくりと花びらを動かす。
そう、15年近く使っている皮の手帳を初めて修理に出した。
油が塗られ、生まれ変わったかのような手帳が訴えていた。
メモの空白に書いた。「4月4日、夜桜」。
僕を誘惑する美しい日本の夜桜は、しばらく脳裏から離れそうにない。