四十雀の囀り日記

路上をゆるりと歩いたり、時に疾走したり。2004年から中国で暮らし、16年秋に13年ぶりに帰国しました。

日本のマスコミが「中国撤退」を煽る理由

多くの日本のマスコミ、ジャーナリストたちは、激しい反日デモを受けて、「中国から撤退すべき」「アジアシフトだ」などと自論を展開した。煽ったといってもいいだろう。ところが、中国の現場にいる日系企業関係者からはむしろ、「いま撤退すれば中国での商機を失い。むしろ中国の思うつぼ」だと指摘する声が少なくない。では、なぜ日本のマスコミは、現場の意見を無視してまで中国撤退を叫ぶのか?

 

■勢いづく欧米・韓国系

中国に駐在するある日本企業関係者は、「闇雲に撤退すれば、欧米系や韓国企業に利するだけに終わり、日本企業や日本社会のためにはならない」と、現実を無視した単純すぎるマスコミの撤退論を警戒する。

市場が拡大する中国では、まだまだ環境技術などで日本企業の優位性は大きい。現場を知らないジャーナリストの声に騙されて、中国でのチャンスを失えば、他の外資にシェア奪われ、日本本社も立ち行かなくなるだろうという。

反日デモ後、勢いづいているのが、欧米系や韓国系企業だ。自動車市場では、日系メーカーの9月、10月の新車販売台数が軒並み5割近くの大幅な前年割れとなる一方、欧米系や韓国系が2桁台の伸びを記録している。「反日デモで日系ブランドの市場を食っているだけ」と、業界関係者は冷静に分析する。

■読者の受けがいい「反中」

「反日デモ」→「中国撤退」という単純すぎる論理展開は、過去の反日デモでも展開されてきた。ここ5、6年ほどの話ではない。70年以上前の戦前のマスコミにも同じ論理展開があるほどだ。

いつの世も変わらない中国撤退論は、新聞記者やジャーナリスト自身の「中国が嫌い」「中国怖い」という感情論から来た意見である場合が多い。さらに大きな背景には、「そのほうが読者の受けがいいという理由がある」、とある雑誌編集者はぶち明ける。テレビや雑誌で過激なデモの映像、写真をみせられた視聴者や読者は、反中的な意見に共感しやすく、流されやすい。

中国嫌いのマスコミ、ジャーナリストたちは、反日デモが起こる度に、「そら事来たことか!」と勢い付き、その度に撤退論を展開する。これのほうが、読者の受けもいいし、読者も多く獲得し、飯が食えるのだ。

読者受けする目立つタイトルになるのなら、日中の経済・政治的な関係性の深さ、中国市場の大きさ、中国市場に注力する日本企業の事業戦略などの現実は無視してもよい。日本の世相に迎合したほうが得策なのは言うまでもないだろう。

これは、昨年の福島第一原子力発電所の放射能漏れ事故を受けて、放射線被害や原発ゼロを過激に訴え、福島からの市民の避難、海外への逃避を唱える人と何ら変わりないだろう。私たち日本人がまず警戒すべきなのは実は中国ではなく、中国の現実を知らないまま感情で「中国論」を語り、自ら日本を陥れてしまう日本のマスコミや世論のほうかもしれない。