拡大する「日本回帰」、地方の若者を活用せよ
これまで中国の低廉な賃金でソフトウェアなどの委託製造していた一部IT業界で、中国から日本へ回帰する流れが出ている。背景には、中国で人件費が高騰する一方、「失われた20年」の影響を受けて平均賃金が低下する日本の若者を活用しようとする企業の狙いがある。
◇「割りに合わない」中国
「今では日本の地方の若者を使ったほうが割りに合うようになっている」と、遼寧省大連市に拠点を構える、あるBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)の日系企業の責任者は打ち明ける。
中国の賃金はここ10年足らずで倍増した。にもかかわらず、効率化・コスト削減という面でなかなか改善が進まない。優秀な人材も集まりにくく、採用しても2~3年で離職してしまう。
大連では、プログラマーの月給が1,800元~3,000元、システムエンジニアが2,000~6,000元と、まだ日本と比べたら5分の1~2分の1にとどまる。ただ、高級人材ほど高くなり、5~10年の経験を持つマネージャークラスでは8,000~1万5,000元と日本円換算で18万円前後にもなる。
◇沖縄の大卒初任給16万円
その一方で、日本の地方では、景気低迷などで賃金が低下している。
厚生労働省の「平成23年賃金構造基本統計調査」によると、青森県の大学新卒の初任給は17万4,700円、沖縄県は16万5,300円。高卒はさらに低く、青森は13万4,100円、沖縄にいたっては12万8,200円。中国人のマネージャークラスの賃金と同程度か、既に下回っているのだ。
「賃金が高騰するのに不良率が高い中国と、賃金が下落するのに不良率が低い日本。トータルコストでは日中でとんとんになっている」と前出の日系企業は指摘。「青森などの東北地方や沖縄などの賃金が低い地方に拠点をつくり、中国で行っていた業務の一部を移転することも考えている。日本の若者を活用したい」と構想を話す。日本の若者の失業対策にも貢献できるため、地方自治体も歓迎しているという。沖縄県では一定規模以上のIT企業などに税優遇策などを実施して、企業誘致を図っている。
中国と賃金が差がなくなっているのも魅力だが、日本人の若者なら当然日本語が通じるし、なんだかんだ言っても仕事に対するまじめさ、手先の器用さは中国人以上だ。
◇日中で棲み分けも
品質とコストを天秤にかけたとき、品質のほうが少し重い仕事なら日本の地方の若者へ任せる。コストが求められる仕事なら、中国へ――。そんな風にこれまでになかった日中での仕事の棲み分けが進んでいく可能性が高まっている。
業界関係者は「IT業界に限らず、日本から中国へ一方的に移転する動きが主流だった製造業でも、広く進んでいくかもしれない」という。