四十雀の囀り日記

路上をゆるりと歩いたり、時に疾走したり。2004年から中国で暮らし、16年秋に13年ぶりに帰国しました。

中国へ流出する熟練技術、「国益を損なう」のか?

 

 


東京大田区、東大阪、長野県諏訪市など日本の各都市に残る「町工場(こうば)」。その町工場のほとんどが、60歳を超えたおやじさんたちが細々と経営する、中小、零細企業だ。彼らが半世紀の歳月をかけて磨き上げてきた「熟練技術」「高度技術」が今、景気低迷する日本で行き場を失い、中国に流出し始めている。

 彼らは、かつて高度成長時代に製造現場での貴重な働き手となり、「金の卵」と呼ばれた。陰ながら、日本の自動車産業や家電・電子産業を陰で支えてきた人々だ。日本が誇る高度技術の一部は、大メーカーの研究センターが開発したものだけでなく、実は彼らが作業現場で垢まみれの中から生み出してきたものが少なくない。

◇消滅する技術

ところが、町工場に後継者はない。彼らが間接的に製品を納めていたトヨタ、パナソニック、シャープ、エルピーダなど日本を代表するメーカーが世界で没落し始め、仕事が減っている。彼らが工場を畳めば、日本の製造業を支えてきた町工場のおやじさんたちが手に持つ貴重な技術が生かされることなく、この世から消滅しようとしまう。

 ある町工場の経営者は「日本で仕事がないのなら、中国など世界に自分たちが持つ技術を輸出したい」。この消えようとする技術を少しの値段でも買ってもらえるなら、「技術流出」と非難されようとも、背に腹は替えられないという。実際に町工場の技術者たちが、中国メーカーに売り込む流れも広がっている。

業界に詳しいアナリストによると、日本の町工場には貴重な技術が眠る。それをまだ世界へ売っていける可能性は高いと指摘する。

◇「国益」を損なう?

 大手企業も海外へ技術の移転を進める動きが加速している。シャープは今年3月下旬、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業グループと資本提携すると発表した。大阪府堺市にある第10世代液晶パネル工場の株式を共同保有して、両社で運営する。

ただ、工場設備だけでなく、技術すらも中国や台湾など海外へ売却する日本の製造業の動きを、「国益を損なう売国奴だ」「共産党を助けるなんて許せない」などと強く非難する日本人が多いのも事実だ。

ある業界関係者は「製造業の動きを非難する人々は、日本の製造業が置かれた立場を理解していないことが多い。消えゆく技術の現場をみないで、感情的に『非国民だ』と叫ぶのみ。国益とは関係がないのだが」と指摘する。

町工場の経営者も「中国やアジアの国々でその技術が生かされていけば、こんなにうれしいことはない」という。その技術で効率良く生産された製品を自分たちも買うことになれば、その利益は回り回ってくるのではないか」という。技術は国境で囲うものではなく、世界の製造現場で生かされていくからこそ、その価値が出てくるのだ。「売国奴」と非難されようとも、日本の町工場の技術が中国へ流出する動きは、今後も加速していくだろう。