四十雀の囀り日記

路上をゆるりと歩いたり、時に疾走したり。2004年から中国で暮らし、16年秋に13年ぶりに帰国しました。

現実とリンクする夢

  多くの人がみる夢って、現実とぶつかって破れるものかもしれない。

でも、現実とぶつかり“リンク”して、夢がもっと膨らむってことだってある。



 きょう早めに仕事を終えた僕は、自転車に乗ってある小さな靴屋の前を通り過ぎようとしました。けれど一瞬、その店の奥に椅子に座ったまま放心したような彼女の顔がみえて、僕は急ブレーキをかけました。向きを変えて、店の前に自転車を止めます。

 クーラーのよく効いた店内に入ると、「いらっしゃい、ジェンイー!」と、彼女は我に返ったような顔に戻りました。4ヶ月ほど前まで果物屋をやっていた女店主です(前にこの日記で書いたことがあります)。
 
 上海市政府の要求で、道端にはみ出して果物を並べる商売は、衛生上と景観上の規則がきびしくなりできなくなったといいます。それで彼女が新たにはじめたのが、この女性物の靴屋さん。

 店の面積はとても小さく、4畳半ぐらいでしょうか。それでも家賃は4000元。儲けはとても少ないといいます。いや、いまはかなり損をしている。以前の果物屋は儲けは少なかったけれど、在庫を抱える必要はないので、決して損はしていなかった。

 彼女はため息まじりに言います。「毎日考えてるけど、どうしたらいいか分からないの。何を売ったらいいのか分からなくて・・・」。

  
 僕は上海に来てもう半年以上になります。超大手から零細企業までいろんな会社を訪問させてみさせてもらったけれど、率直な感想は、本当にお金が儲かっている会社なんて少ないということです。いや、ほとんどそんなのはないと思ってもいいくらいです。
 どの会社も、大金を銀行から借りて会社を動かしてはいますが、まさしく自転車操業。その金額が大きいか小さいかだけの違い。本質はまったく同じで、漕がなければ失速して転ぶ。いくら損をしていたって漕ぎ続けなくちゃいけない。「儲ける」なんてことはこの世に存在しなくて、幻想じゃないかと思ってしまうくらいです。
 ここ上海の街で保障されているは、儲けることじゃなく、漕ぎ続けるエネルギーがあるということだけのような気がしてなりません。



 最近、ビジネスの雑誌をたくさん読み漁って知識だけはあった僕は、少しだけ店を変えるアイデアを口にしてみました。少しだけ彼女の目が、動いたのが分かりました。もっと何か考えれば、きっと何かが生まれてくる。彼女の中で新しい現実とリンクできたような目の輝きだったのかもしれません。





 座り込まない。あきらめないで考えながら歩き続けていると、人はふと必然のように夢とつながる現実に出会う。そうあって欲しいと思っています。