四十雀の囀り日記

路上をゆるりと歩いたり、時に疾走したり。2004年から中国で暮らし、16年秋に13年ぶりに帰国しました。

ねじ巻き時計のねじを巻く (1)

今朝、目を覚ますとテレビの上に置かれたねじ巻き時計が、7時19分を示していた。 布団の中から枕元へ手を伸ばし、携帯電話を引き寄せて時刻を確かめてもやはり同じ7時19分。 「こんな偶然ってあるんだな…」と僕はつぶやいた。 ねじ巻き時計は、僕の怠慢の…

普通の日記

こちら広州もだいぶ空気が冷たくなってきました。暖房がほしいです。それでも亜熱帯だからなのか、街の木々は青々としたままです。 最近はこのブログの更新も1ヵ月に一度程度になってしまいました。次回は年明けの2009年1月でしょうか。 今年の中国はいろ…

月を撃つ

「もしあの月を撃ち落とすだけの力を持つことができれば、 この世から消えてしまうのかもしれない。いま多くの人々が感じている悲しみや苦しみも」 電話の向こうであなたは言った。 何をどう語るのかなんてどうだっていい。 何をどう感じているのかが、知り…

バベル

僕が暮らすアパートの真向かいに、人が誰もいない、巨大なビルがある。 この辺りでは一番高いビルで、40階はあるだろうか。 デベロッパーが資金不足になったとかで、建設が中止されてしまったのだろう。 ビルを人に例えるなら、頭(最上階)から腰辺り(20階…

髪を切る

大きな鏡に映す自分の顔。 伸びてきた髪。直径2センチあるかないかだが。 しかも少し巻き毛が混じる。 いつから天然パーマになったのか。生まれながらだったのかどうかも思い出せない。 切る、切らない。鏡と相談するが結論は持ち越し。 とりあえず、床屋を…

五輪の夜

北京五輪開幕式の夜はひとり会社で残業となってしまい、なんとか仕事を終えたのは9時過ぎだった。開幕式はもうとっくの昔の1時間前から始まっている。 帰り道にいつものスーパーに寄ると、顔なじみの若い女性たちがレジで黙々と働いていた。 購入した牛乳…

もうすぐ南の街へ

2年半を過ごした上海を離れることになった。秋から中国の南の都市、広州で暮らす。働く。転勤というやつ。 (そう、今年の春に転職した。) 上海での生活もあと1カ月半ほど。 時間は止まらない。 止まらないどころか、いつもより時間は早く流れてる。 いつ…

職人の汗

職人が流す汗。 上海の郊外にある七宝古鎮にある桶屋を訪ねました。 日本の重工メーカーに勤め、中国で調達の仕事をするZhenさんが1年ほど前から上海に来る度に通いつめていた場所です。休日にいっしょに同行させていただきました。 言い訳や取り繕いが通用…

アキバ、変化の足音

変わる。 ただそれだけのことが怖くて人は留まったり、人を殺したりする。アキバの凄惨な事件。 世の中は変えられない。アキバは変わらない。人を殺したとしても。 でも、自分なら変えられる。 自分を変えるのは難しい。けれど世の中を変えるよりずっとずっ…

少年

少年は、体に似合わない大きな自転車に乗りながら、ゆっくり後をついてきた。 瓦礫の山になった小さな村の写真を撮っている僕に興味を抱いたようだ。 少年は「中国 加油(がんばれ)!」と書かれた白いTシャツを着ていた。何日も着ているのだろう、中国の赤…

静かな光の夜に

人は、他人の痛みを感じられる。涙が流せる。 そんな当たり前のことを、ここ中国でも感じた。 2008年5月12日午後2時28分。 四川省で大きな地震があった。 犠牲者は最終的には7万人を超えるとも言われている。 まだ多くの人々が瓦礫の下に埋まって…

チベット族の阿宏

深夜1時。 隙間だらけの安い宿屋の寒さに尿意を催した。 僕は薄い布団からそっと抜け出してトイレへ行こうとすると、階下の薄暗い部屋からパソコン画面の光が漏れていた。 音は何も聞こえてこないが、格子にパソコンの青や赤の光が反射して動く。 インター…

偶然の物語

「物語を書こう」と、約束したのを覚えている。 ずっと昔のことだ。 彼女との物語は、必然だと思った。 僕がまず書き出す。1つの章を書き終えたら、彼女へ渡す。 そこから、彼女が書き繋いでいく。そして僕が書く。また彼女に渡す… 永遠に終わらないはずだっ…

寄せては返す波のように

「人との関係って、行ったり来たりしてるのがいいんですよね」 ある後輩が、僕に同意を求めるように言った。 10年ぐらい人生の後輩だが、最近家庭を持つことではもう先を越した男だ。 確かにそうかもしれない。 一方が好きで好きで堪らない時もあるけれど、…

シンプル・プリンシパル

「もっと物事ってシンプルなんじゃないかと思ってるんです」 と、彼はうつむき加減に言った。 自信がないんじゃない。ちょっと細めの目がさらに細くなって、楽しくて笑っているかのよう。 「吹っ切れた」、と表現したら言い過ぎだろう。人が何かから吹っ切る…

ラン、ラン、ラン

完走しました。 先週末、11月25日に開催された東レ杯上海国際マラソン。 僕が参加したのは、ハーフマラソンの21キロ。 過去最大の1万8000人が参加したとか。左足のひざが痛くて途中で棄権しようと思っていたのに、大会の雰囲気に飲まれるようにして走ってし…

右手の薬指

深夜、携帯電話が鳴った。 いつまでも繋いでおきたくて。 長い間、僕らは話した。 ときどきため息をつくあなたの声を聞きながら、 僕はもう二度と爪の生えてこない自分の右手の薬指をみつめていた。 古傷、 僕の右手薬指にある深い傷。 事故当時、周りを取り…

僕らの平均年収

先日、中国の大学で講義をする機会があった。 日本語を専攻する40人ほどの学生たち。上海からやってきた日本人がいったい何を話すのかと興味津々の眼差しを浴びる中、僕は黒板に大きく「格差社会」と書いた。 まず、日本の平均サラリーマンの平均年収がだい…

寛容な世界

なにかの禁止マークが立ってるけど、 もっと好きにやっていいんじゃない。 だって、こんなに綺麗な青空が広がってるわけだし。 彼女は空を見上げながら気だるく話した。 そもそも、そんなに自分をつまらない枠の中でがんじがらめにする必要がどこにある? 自…

僕の特別な人

週末、ひとりで上海の街角に立ち、道行くひとびとを眺めていた。ある人との待ち合わせのために、空いた15分ぐらい時間だった。 楽しそうに笑顔で話しながら通り過ぎてゆく二人の女の子、デート中の若い男女、足の悪そうなおばあさんを支えて歩く男性、きれい…

ビリから3番目。

ビリじゃない。けど、いつもビリから3番目だった。 小学生の時。背の低い順に整列させられた。学校の先生なんて、ひどいことをする。2月10日の早生まれ。みんなより発達の遅れた僕は、前から3番目だった。 横の女の子の列を見れば、僕より背の低い子は…

すべて故障なり

故障その1.洗濯機が回らない。だから最近はもっぱら手洗い。おかげで手の皮がずりむけた。故障その2.テレビは、ザザーと白黒の縞模様のみ。だから最近はテレビは“没看”。おかげでYouTubeでダウンタウンを観る日々。故障その3.シャワーのお湯はヤケドし…

引越しの決め手

声は、人をよく表す。 部屋から聞こえてきた女性の声を聞いて、僕は期待した。 まだ見ぬ女性はきっと美女に違いないと、僕は期待したのだ。 と、書いてあっても何のことやら分からないだろう。 その前に、上海に来て初めて、違うアパートへ引っ越すことにな…

白い肩、動く腰

薄い着物を上から脱げば、 女の白い肩が覗く。 そのまま光の中で踊り続ける女の首すじの妖艶な白さをみつめていると、喉が極度に渇いて次々と飲めないビールを流し込んでまう。いっそのこともっと激しく、もっと強く世界は破滅すればいい。 中国人の若者たち…

夢から醒めないのは地球温暖化のせい

若者たちでごった返す休日の街角で、僕らは別れた。 互いに背中を向けて歩き出して10メートルほど離れた時、彼女がどんな姿で帰っていくのかを確かめたくなり、僕は振り返ってみた。 彼女も同じタイミングで振り向いたらしく、距離がどんどんと離れていく人…

上海で自分だけのオーダーメイド革靴の楽しみ

生まれてはじめて、自分だけのオーダーメイドの靴を作った。 作ってもらったのは、僕が時々会社の帰り道に立ち寄っていた靴屋さんだ。 靴職人の曹志高さん、46歳。 上海の離島、崇明島で生まれた。16歳の頃、おふくろさんが若くして癌で死ぬと、すぐ働きに上…

可愛い隣席の女性

「あなたにこれをあげます」と、真顔のまま彼女は言った。 彼女が示していたのは、彼女の左手首に巻かれた腕輪。 「人からもらったもの。でも気にしないで。ぜひもらってください」という。 先々週の日曜日、私は、上海の近郊にある水郷の里として有名な「周…

永遠に生きよう

自爆テロ。 パレスチナでは、「ジハード」(聖戦)と呼び、18歳の女子学生や結婚を控えた28歳の女性までもが自爆テロへと向かう。爆弾を腰に巻きつけ、人々でごった返すバス内で自らの肉体とともに爆破させる。これからという若い人たちがなぜ自ら命を絶とう…

風向き

たった今、風向きが変わった。 右頬を撫でていた風が突然に向きを変え、左頬を打ち始めた。風向きなど意識しない意識が、何かの未来を意識しはじめる。風向きが変わるとき、どこか遠くでそれに対応するものや誰かの変化が起こっているのかもしれない。 今夜…

足元の金魚鉢

昨日の土曜日。ひとり上海の地下鉄2号線に乗って、買い物に出かけた。 人もまばらな車内の座席に腰掛けると、向かいの席に金魚がいた。 息苦しそうに水面から口を出してパクパクとさせている真っ赤な体。僕は、場所に不釣合いな金魚の姿に見入りながら、そ…